メンバー紹介
堀尾恵一教授 九州工業大学
一般社団法人行動評価システム研究所(BASラボ)理事の堀尾恵一です。
行動分析/画像処理などを専門として、九州工業大学大学院生命体工学研究科で研究しています
BASラボでは主にデータ解析、人そのものの観察や計測を担当しています。
行動分析とは
専門としている「行動分析」は、人の行動を観察しその行動はどうして起こったものなのかを探求する研究領域です。
研究の具体例としてお示しすると、子どもの行動分析が挙げられます。
子どもが夢中になって遊ぶとき、なぜ繰り返し遊ぶのか?ただただ楽しいからか・先生が褒めてくれるのが嬉しいのか・上手になることが嬉しいのかなど動機は様々です。またどうやって遊ぶのか?次はどの遊具で遊ぶのか?そこを探求したいというのが我々のモチベーションです。
対象となる人の行動を動画・音声によって取得し、得られた大量のデータを分析、仮説検証します。こうした大量のデータから、人の行動規則の解明・行動の予測・動機の推定を情報工学の立場からアプローチしています。
その人の内面・心理・モチベーションは何だったのかを探求し、行動の規則を抽出し取りまとめる事を行動モデリングと呼びますが、これは今後のAI(人工知能)開発にも大きく関連する研究です。人工知能の発展には人そのものの理解がたいへん重要という考え方で、これは九州工業大学大学院生命体工学研究科の設立趣旨にもなっています。
面白いのは、一人の行動規則は経験・体験といった外的要因によって常に変化するという点です。学校や家庭での教育はその最たるもので、外的要因(介入)によって人の行動は変わるのです。
膨大情報の収集と解析
行動分析は人の行動を観察データとして収集する必要があります。
例えば画像です。子どもの行動分析では、一人一人の子どもの動き・視線・しゃべっている相手などを記録した映像からデータとして取り出す事が重要となってきます。従来は研究者が映像を見ながら一つ一つ拾っていくような作業が必要でしたが、360°カメラの自動分析技術も進んできて研究手法に用いる事が出来るレベルに近づいてきています。
この画像処理技術を応用して口腔粘膜疾患診断支援システムMucoScanを九州歯科大学と共同開発しました。
AI(人工知能)とソフトコンピューティング技術によるクラウド型支援システムで、歯科医が口腔内の写真を撮影、AIが解析して粘膜疾患(扁平上皮がんなど)かどうか80%以上の精度で診断してくれます。
歯科医から口腔外科専門医への紹介が早期に可能となるツールとして実用化されました。
情報の可視化
行動分析で集められた大量の情報は、様々な角度から解析が必要です。データ解析にはたくさんの手法がありますが、複雑な個人個人の行動を分類したい場合、自己組織化マップ(SOM)を用いることもあります。
自己組織化マップはわかりやすく例でいうと、あるデータがたくさんの数値で表されているとき、どの部分が似ているのか似ていないのか、データ同士の近さをマップとしてビジュアル的に把握できる手法のことです。
専門的なお話は避けますが、それぞれ個性をもち多様な行動を示す人の行動を解析するにあたって二次元化したマップで表現され、とても便利な解析手法です。
自己組織化マップ自体は古くからある手法ですが、BASラボで開発したメントレアプリはこの自己組織化マップを初めて搭載したアプリとして斬新な存在だと思います。
介入-人の能力を伸ばしてあげたい-
行動分析には、ここまでお示しした「行動の計測」「行動の解析・モデリング」ともう一つ、「介入」というテーマがあります。
人、特に子どもは様々な行動・経験から学習し常に行動規則を変化させていきます。学校や家庭での教育、友達との関わりのなかでの気づきなどが分かりやすい例ですね。
行動分析によって行動規則や動機が分かってくると、介入しやすくなります。どのような介入を行えば良い方向に変えていけるかというテーマです。これら3つを有機的に繋げていきながら研究を進めています。
この介入は子どもたちへの教育にも関係すると考えています。戦後、教育は認知能力(学力)偏重で進んできましたが、近年は非認知能力(周囲との円滑なコミュニケーション力・新しい発想をする・ルールを守るなどIQや学力テストでは数値化できない人生を豊かにする能力)の重要性が指摘されています。非認知能力はもともと定量化しずらいものですが、行動分析によって積極的に定量化に挑んでいきたいと考えています。
友達とどう付き合っているかなど行動に全てあらわれているとすれば行動分析によって解析し、やがてその人の非認知能力を伸ばす最適な介入についても見いだせるかもしれません。
人の能力を伸ばしてあげる、そんな研究を進めて行きたいと思っています。
BASラボの魅力
九州工業大学ではファジー理論で有名な山川烈先生にたいへん大きな影響と感銘を受けました。
「生命とロボットが織りなす脳情報工学の世界」として2001年にオープンしたキャンパス(大学院生命体工学研究科)は「神経生理」、「心理・情動」、「理論・モデル」、「デバイス」、「ロボティクス」と分野横断的な研究者が新しい情報処理技術を研究する独創的な研究拠点となっています。
BASラボはまさにこの幅広い視野から生まれた存在です。脳を直接研究対象とする夏目教授、心理(メンタル)を専門とする磯貝教授など多面的な研究アプローチが出来る、これがBASラボの魅力ですね。